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【メンバー日記】ピアノの想い出(その9)


学生時代のクラスメートの奥様は、米国の音大で教鞭を取られるピアニストです。たまたまのメールでヴォカリーズのことに話が及んだ時、彼女は、「ウチには素晴らしいピアノがございます。弾きにいらっしゃいませんか?」と誘ってくれました。いくらなんでも本物のピアニストの前でピアノを弾く度胸は、私にはございません、とお断りすると、「この国では、ピアノを弾く方は、皆、ピアニストなのですよ!」と諭されました。

ピアノが好きで弾く者は皆、ピアニストです、という言葉は、その後、ずっと長く私の胸に残りました。そうなんだ、僕もピアニストなのだ、と思えることは、その後の私のアイデンティティともなりました。

昨年度までで全ての役職から外れ、自身のアイデンティティの多くが消え去りました。意識するしないは別として、私たちは基本的に自らのアイデンティティに寄りかかって生きています。それを失うことは生きていく依り代を失うことでもある、と私は考えます。そして、年とともに失われるアイデンティティを引き留める術も、ありません。放っておくと消えてしまうコレクション、それを保つためにピアノを弾き続けることを自らのアイデンティティとする、はたしてそのようなアイデンティティにどこまで依拠できるかということは、これからの私の生き方にも係わる課題です。

夕刻の一杯のアルコールもまた、生きるよすがです。ほろ酔い気分でピアノを弾くのも悪くはありませんが、実際のところ、あまり酔っていてはうまく弾くことができません。本当は、ピアノを弾くこと自体に酔い痴れることができれば、ということが、今の私の望みでもあります。

長々と書き連ねましたが、これで終わりにします。有難うございました。


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