1月17日金曜日、午後9時。東京駅のホームで、1週間の仕事を無事に終えた安堵感と、これから始まる旅への期待感が胸に交錯する中、筆者は北へ向かう新幹線に乗り込んだ。
列車の中で缶ビールを開け、晩酌を楽しみながら1週間のあれこれを振り返る。少し酔いが回り、うとうとしているうちに、窓の外には深い闇の中にぼんやりと浮かぶ雪景色が広がっていた。ここは新潟県湯沢町、まさに川端康成が『国境の長いトンネルを抜けると〜』と描写した土地だ。幼少期から毎年スキーで湯沢を訪れていた筆者。今年もシーズンが始まると滑りたい気持ちが募り、この週末スケジュールが空いていたことから、突然出かけようと思い立ったのだ。
越後湯沢駅で降りて、近くの宿に向かう。早速温泉に浸かり、窓越しに見える静かな白銀の世界を眺める。お湯のぬくもりは寒さでこわばった体をじんわりとほぐし、心まで温めてくれた。1週間の疲れもすっかり癒された。
翌朝、張り切りすぎて早起きした筆者は、8時過ぎにシャトルバスでゲレンデに向かった。この日は快晴、リフトで山頂に登ると、青い空と白い雪とのコントラストに心を奪われた。また、谷川連峰の山々が幾重にも重なり、遠くまで続くその壮大さに圧倒された。絶好のスキー日和だ。
山頂からゲレンデへ滑り降りる。冷たい風が頬をかすめ、足元から伝わる微かな振動が心地よかった。思っていた以上に体が動かず、学生時代にスキーサークルで滑っていた頃と比べると体力の衰えを感じた。それでも、滑り降りる瞬間の爽快感は何にも代えがたく、風を切る感覚とともに学生時代の記憶が鮮やかに蘇り、スキーの楽しさを全身で味わうことができた。
「やっぱり、スキーが好きーなんだ。」
改めてそのように実感した。
スキーもダジャレも滑ったところで、今日のストリートピアノのレポートをしたいと思う。
午後3時、この日のスキーを終えた筆者はシャトルバスに乗り込み、越後湯沢駅に戻った。シーズン真っ只中の越後湯沢駅は、多くの観光客やスキー客でごった返しており、駅構内は活気に満ちていた。
駅の賑わいを感じながら、筆者はいつものストリートピアノの場所に向かった。越後湯沢を訪れるたびに足を運ぶこのピアノは、筆者にとってお気に入りの場所でもある。
ちょうど小さい子どもたちが、両親たちの見守るなか懸命に演奏しているところだった。そこのピアノはスケルトン構造になっていて、ハンマーが動く様子を見ることができるのだ。一人の子どもがピアノを弾いていると、別の子どもが興味深そうにじっとピアノの中を見つめていた。
彼らが演奏を楽しみ、そして面白がってピアノを観察している様子を見て、純粋に音楽を楽しむ姿に心が温まった。その微笑ましい姿に拍手を送った。
次は筆者の番だ。今回もベートーヴェンのソナタ第30番から第1楽章を弾いた。スキーを終えたばかりで指先が冷え切っていたが、なんとか弾ききることができた。弾いている最中にひとり、また一人と足を止めて聴いてくださったのが嬉しかった。演奏が終わると、温かい拍手をいただいた。
その後も、インバウンドの旅行客の方たちが次々にピアノを弾き始めた。クラシックの曲を弾く方もいたが、久石譲さんや坂本龍一さんなど、日本の作品を披露する方も多く、日本の音楽文化が広く愛されていることを感じた。誰かがピアノを弾くたびに周囲から多くの人が集まり、その場は温かい拍手に包まれた。
今回もストリートピアノで、沢山の素敵な演奏に出会うことができた。スキーだけでなく、越後湯沢での音楽のひとときが旅に彩りを添えてくれた。
【今日の酒テロ】
越後湯沢駅構内にある「ぽんしゅ館」は、新潟県内の数百種類以上の地酒を取り揃えた酒好きの聖地ともいえる場所。500円で5枚つづりのコインを購入し、試飲専用の自動販売機で好きな銘柄を選んで試すことができる。地元の米と水で作られた日本酒を飲み比べる贅沢な体験だった。筆者も飲んだことのない銘柄を含む5種類を試し、それぞれの個性の違いに驚かされた。華やかな香りのもの、すっきりとした飲み口のもの…。日本酒の奥深さを改めて感じるひとときだった。
【今日の飯テロ】
新潟の名物といえば「へぎそば」。越後湯沢の駅構内のお店でいただいたへぎそばは、布海苔を練り込んだ独特のコシが特徴だ。天ぷらも素材の味が活きていて、いくらでも箸が進んでしまう。旅先ならではの格別な美味しさだった。
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