どうも、T.N.です。9月も後半に入りましたが、まだ暑い日が続きますね。皆様、体調にはお気をつけてお過ごしください。
9月17日(土)、18日(日)、横浜国立大学で「ぼうさいこくたい2023」が開催されました。ぼうさいこくたいは正式には防災推進国民大会といい、防災に関する意識向上や、災害の経験、知識の共有を目的に開催される、日本最大級の防災イベントです。関東大震災100年の節目にあたる今年は、震源地エリアの横浜での開催となりました。キャンパス内では、防災グッズの展示やポスターセッション、ワークショップなどが行われており、多くの参加者で賑わっていました。
キャンパスの奥へ進むと、講義棟の前に「あの日を奏でるピアノ ローラちゃん」との掲示がありました。中に入ると、1台のグランドピアノが設置されていました。名前を「ローラちゃん」というそうです。
ピアノの前では、オーナーでピアノ講師の櫻井由美さんと、ピアノ修理師の松木一高さんによるトークイベントが丁度始まったところでした。せっかくなので、お話を聴いていくことにしました。
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2011年3月11日、宮城県七ヶ浜町の櫻井さんのご実家2階に置かれていたグランドピアノは、津波に呑まれ家ごと流されていきました。1ヶ月後、2軒先の敷地まで流された櫻井さんのご実家は解体されることになりました。
解体にあたり、中のピアノをどうするか尋ねられた櫻井さん。大量の土砂と海水を被ったピアノは、とても演奏できるような状態ではなく、家ごと解体をお願いしたそうです。
櫻井さん「でも、そのあと不思議なご縁が色々あったんです」
解体作業後に櫻井さんが目にしたのは、瓦礫の山の前に残されたピアノでした。どうやら業者さんがピアノは解体せず、外に運び出していたようでした。
そこを通りかかったのが、被災地支援のため七ヶ浜を訪れた女性シンガーソングライターのMetisさんでした。Metisさんは傷だらけのピアノを見て心を痛め、修復に向けて動き出しました。Metisさんは、知人の伝手などを通してピアノ工房に片端から連絡をとり、修復できないか打診しました。しかし海水にどっぷり浸かったピアノの修復を引き受けられる職人さんは、なかなか現れなかったそうです。
130件から断られた末、辿りついたのが横浜でピアノ工房「クラビアハウス」を営む松木さんでした。
松木さん「130件断られたと聞いて、逆に燃えましたね。ウチでなんとか修復しようと思いました」
30年以上にわたりあらゆるピアノの修理を手掛けてきた松木さんですが、櫻井さんのピアノの状態はこれまでで一番酷かったそうです。修復は非常に困難なものでしたが、松木さんの匠の技により半年後には演奏できる状態まで戻りました。
鍵盤の剥がれや外側の傷など音色に直接影響しない箇所は、櫻井さんの意向でそのまま残したそうです。櫻井さんの教え子さんは、ピアノを見て「『(西城秀樹さんの)傷だらけのローラ』だね」と言いました。こうして、櫻井さんのピアノは「ローラちゃん」と名付けられました。
奇跡の復活を遂げたローラちゃんは、七ヶ浜町の施設に引き取られ保管されることになりましたが、2021年からは仙台空港でストリートピアノとして開放され、多くの人が弾きに訪れるようになりました。
そして、今回の「ぼうさいこくたい2023」では、ローラちゃんが「奏でる震災遺構」として展示されることになったのでした。
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トークイベントの後、櫻井さんが声を掛けてくださいました。
「ぜひ弾いていってください」
今回のぼうさいこくたいの会期中、ローラちゃんはストリートピアノとして開放しているそうです。早速弾かせていただくことにしました。
今回演奏したのは、ベートーヴェンのソナタ31番終楽章です。被災地への静かなる祈りと、復興への大いなる希望を込めて選曲しました。
弾き始めて驚いたのは、圧倒的なコンディションの良さでした。あの日、土砂と海水を浴びて全くダメになってしまったというのが、嘘のようでした。まさに松木さんの素晴らしい技術の為せる業だと感じました。
弾いているうちに、ローラちゃんの復活に尽力した方々のことが頭に浮かんできました。そして、こうしてローラちゃんに触れて音を奏で、音色を感じることができる有難みをひしひしと感じました。これからもずっとローラちゃんの音色が響き続けるといいなと思いました。
今回のぼうさいこくたいは終わってしまいましたが、次は9月24日から28日まで横浜の象の鼻テラスでストリートピアノとして開放するそうです。
https://zounohana.com/events/post-2042/
ご興味のある方は、是非弾きに行かれてはいかがでしょうか。
↓ローラちゃんについては、こちらの動画もご参照ください。
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