どうも、T.N.です。今日も元気にストリートピアノ日記を書いていきたいと思います。
4年前から書き始めたストリートピアノ日記も、今回で100本目の節目を迎えました。最初はなんとなくの思いつきで書き始めたものでしたが、全国各地のストリートピアノでのさまざまな出会い、そしてその土地ならではの空気や風景に惹かれて、気がつけばすっかりのめり込んでしまい、ここまで続けてくることができました。
こうして続けてこられたのも、いつもお読みくださっている皆さまのおかげです。改めて感謝申し上げます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
今回は100本目の節目ということで、筆者のストピ巡りの原点について書きたいと思います。
これは今からウン年前、大学院の修士学生だった頃の話です。
当時は毎日研究室にこもって、研究に取り組む日々でした。自分のテーマは決して順風満帆に進んでいたわけではなく、常にどこか焦りを感じていたのを覚えています。周りに相談できる人はいても、いざ自分のテーマに向き合うと最後は自分自身で考え続けるしかない。そんな孤独のようなものも感じていました。時には数日間研究室に寝泊まりすることもあり、起きている時間の大半をパソコンの画面に向かって過ごしていました。
そんなある日、定例のゼミでの発表を終え、ようやく一息ついたときのことです。「今回も散々だったな」と思いながら、少し気晴らしに外の空気を吸いたくなりました。
帰りがけ、なんとなく電車に乗って横浜へ向かうことにしました。
みなとみらい線の終点、元町・中華街駅で電車を降り、海の方へと歩いていきます。山下公園、大さん橋、赤レンガ倉庫と、海沿いをゆっくり進んでいきました。
研究室にこもりきりだった筆者にとって、日の当たる海沿いを風を感じながら歩く時間は、何よりの気分転換になりました。
2駅歩いて馬車道駅へ。帰りの電車に乗ろうと階段を下り、地下のコンコースを進んでいくと、どこからかピアノの音が聴こえてきました。
音のする方へ歩いていくと、そこにアップライトピアノが置かれており、若い男性がゲーム音楽を演奏しているところでした。その温かみのある演奏に、思わず足を止めて聴き入ってしまいます。
弾き終えた男性に拍手を送ると、「どうぞ弾いてみてください」と声をかけてくださいました。ありがたく、弾かせていただくことにします。
曲はベートーヴェンのソナタ31番1楽章。しばらくぶりに鍵盤に触れることもあり、少し緊張しながら弾き始めました。
音を出した瞬間、レンガづくりの壁に反響した音があたりに広がっていきます。吹き抜けのある広い駅構内に音が広がっていく感覚は心地よく、まるでホールで弾いているようでした。鍵盤のタッチは軽く、弾きやすく感じました。
弾き終えると、その男性が声をかけてくださいました。
「いい曲ですね。何という曲ですか?」と尋ねられ、興味を持っていただけたことが素直に嬉しく感じられました。
その後、少し言葉を交わしました。聞けばその方も大学で教員をされているとのことで、分野こそ違えど研究者としての先輩にあたる方でした。息抜きとして、ときどきここでピアノを弾かれているそうです。
筆者が大学院で研究をしていることを伝えると、「身体に気をつけて頑張ってくださいね。たまには息抜きも大事ですよ」と温かい言葉をかけてくださいました。
研究室の中だけが自分の世界のように感じていた日々でしたが、こうして外に出て、ピアノを弾き、人と話すことができたことがありがたく感じられました。居場所は研究室の中だけではないのだと、ふと気づかされた瞬間でした。
その1年後、筆者はなんとか大学院を修了し、企業の研究職に就くこととなりました。新卒で入社してから現在に至るまで同じ職場で働いていますが、なんだかんだ学生のときに研究してきたことを活かして仕事ができていることには、ありがたさを感じています。
大学院での研究生活を振り返ると、大変なことも多くありましたが、そんなとき、ふと馬車道で声をかけてくださった彼の言葉が脳裏に浮かび、少し気持ちが軽くなったのを覚えています。
就職してからというもの、馬車道駅にはよくストリートピアノを弾きに通うようになりました。いつかお見かけしたら、あのときのお礼を伝えたいと思いつつ、まだそれは叶っていません。
せめて、自分がこれからストリートピアノで出会う方々に対しては、あのときの彼のように、自然に人に寄り添える存在でありたい。そんなことを頭の片隅で思いながら、今日も各地のストリートピアノを巡っています。
