小さい頃からピアノを習っていた方の中には「ハノン」を教材として用いていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ドミファソ ラソファミ
レファソラ シラソファ
・・・
というような規則的な音形を繰り返す練習曲集です。
この練習曲集をきっかけに単調な練習のつまらなさに辟易し、仕舞いにはピアノをやめてしまった人もいるようです。
かくいう私も小さいころに教わっていた先生に毎日少しずつやりましょうねとハノンを貸して頂いてご指導を受けたものの、あまりにも私が練習をしなかったために「もうこれはやめましょうね」とさじを投げられるに至った経験があります。
まさにピアノビギナーズ・キラーとして悪名高いハノン。
今回思うところあって、「ハノン」について綴ってみたいと思います。
ハノン、正しくはシャルル=ルイ・アノンというフランス人のピアノの先生がお作りになった「ヴィルトーゾピアニストの60の練習曲」という名称。
お生まれはショパン、リスト、シューマン、メンデルスゾーンらと大体同年代の1812年だそうです。
内容は三部に分かれており、
第1部 指の独立と均一性のための練習
第2部 色々な調のスケール
第3部 さらに進んだテクニックのための練習
となっています。
第1部がいわゆるドミファソラソファミ・・・等々
アニメ「ピアノの森」では主人公の男の子が普通のピアノに慣れるために先生に延々とハノンの第1部の練習曲を弾かされて辟易している様子も描かれておりハノン嫌いだった私には微笑ましいシーンの一つです。
なぜこの練習曲集が嫌いだったか。
・単調で弾いていて楽しくない。
・そして練習曲なので当然ではありますが、技術的には難しい。両手ユニゾン(高さの違う同じ音を左右で違う指使いで弾く)の動きは実はすごく難しい。
・難しいのに、音楽として響きがカッコイイわけではない。
・もっと音の粒をそろえましょう、などと先生に厳しく指摘され、付点音符のリズム練習、スタッカートや二音ずつのフレージングでさらってみましょうなどと課題が爆発的に増える。
などなど。
子供は素直なもので、つまらないものはやりたくないという理由で練習嫌いになってしまいました。
しかしこれはこの練習曲がなぜ優れているか、何のためにこれをやるのかが理解できなかったために起こった悲劇ともいえて、
・単調な譜面は一方では読譜が容易ですぐにでも取り掛かれること
・リズム正しく音の粒を揃えて引く(正しい音価で弾く)ことはどんな曲を弾くときにも基本となること
・筋トレなどと同じくエチュードはそもそも弾いていて楽しくなるためのものではないこと
・見た目以上にすごく難しい教材をやっているんだということ
などを理解しておればそれほどまでにこの曲集を嫌うことはなかったようにも思われます。
まあでも、遊びたい盛りの子供にはちょっと難しかったかな。「これは栄養があって体にいいのよ」と言われても嫌いな野菜はさして食いたくならない気持ちに似ているかも知れません。
ところでなぜハノンかというと、先日のレッスンで私のピアノの先生にハノンをやるよう勧められたのです。
(60番のトレモロ奏法のための、というやつ)
瞬間「うっ、ハノンかよ〜」と思いましたが、素直に取り組もうと意を決して楽譜を新調。
ハノンと相まみえるのは30年ぶりくらいですかね。。。ハノン先生はお変わりなく(?)整然と音符の並んだいかめしい面持ちですが、わたくしの成長をお見せする気持ちで毎日少しずつ取り組んでいます。
子供の頃は気付きもしませんでしたが、このようなことが書いてある。
「この曲集は全部弾いても1時間で弾けます。皆さんは6時間くらいは練習されるでしょうから、1時間はこの曲集に当てても良いでしょう。めきめき上手くなりますよ!笑」
何とも意識高い系のハノン先生ですが私は1時間も集中力が続かないので10分を目処に取り組んでいます。役立ってるかどうか、今のところ実感はありません。
ハノン、ツェルニーはつまらない練習曲集の代名詞として知られていますが、これらには皆さんも色々な思い出やエピソードがあるのではないでしょうか?
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正確に弾く技術というものはピアノを弾く上でなくてはならないもの、というよりは、結局は自分の技術の範疇でしか表現することができない、と痛烈に思う今日この頃。
この音楽は本当はもっと美しく響くはずなのに、もっとカッコよく聴こえるはずなのに、と思ったときこそ、まさに技術に磨きをかけるときなのかもしれません。