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  3. 【メンバー日記】ピアノの想い出(その13)


最新のデータでは、日本人男性の平均健康寿命が72.14才に達したということで、今年に入ってこのエポックを越えた私は、残りの期間を「おまけ」の人生と思い定めようと決心した・・・つもりでしたが、実際の日常生活をそのように達観するまでには、なかなか至りません。この間、シニアサロンのピアノ伴奏とシニア向けの体操教室に参加してほぼ1シーズンを過ごし、分かってきたことがありました。それは、毎回が同じことの繰り返しであって、そこには、およそ進歩とか向上とかいったものが一切見られないということです。考えてみれば、シニアの毎日は劣化との戦いであって、変化のない「現状維持」こそが、ある意味、進歩そのものであるということなのでしょうか。がしかし、淋しいことです。つまらないです。

ピアノももはや技術的な進歩は望むべくもありませんが、しかしそこには新しい出会いの可能性があります。というわけで、私の最近の出会いは「カッチーニのアヴェマリア」でした。NHKの「左手のためのピアノコンサート」という番組を偶然、拝聴し、そこに出演した半身不随の青年が演奏したこの曲の玄妙さに、心を撃たれました。その後、片端からユーチューブを閲覧し、原曲がカッチーニではなく、ロシアのウラジミール・バビロフ作曲であり、昔から馴染みがあったような印象に反して日本で人口に膾炙したのは1990年代に入ってから、などとトリビアな知識を得ましたが、それはともかく、最初に受けた衝撃をできるだけ忠実に再現することを意識しました。

日本でもピアノソロへの編曲は数人の方がなされてますが、TVで視聴したものは、吉松隆さんの編曲で、左手専用のもの、および両手バージョンがありました。ちなみに、左手バージョンは館野泉さんの演奏が大河ドラマ「平清盛」のBGMに使用されたとのことで、成程、切々とした単音の旋律が物語の悲劇性を見事に描き出しておりました。

単音の旋律と申しましたが、吉松さんの編曲は極めて精緻なもので、伴奏の幅広い分散和音の一音ずつには全く無駄がなく、不協音を混じえた和音の進行も重厚な雰囲気を主張しており、その厳密で緻密な構成に感嘆させられました。それだけに覚え切るのはなかなかの難事です。

吉松さんとは対照的に、加羽沢美濃さんの編曲は、優美でピアニスティックな模様を醸しており、こちらもいずれ楽譜を入手しようと目論んでおります。

ともあれ、この一曲でこの一年を乗り切ることになるでしょう。こうした出会いは偶然の産物であって意図的に探し求めた結果ではありません、がそれこそは「出会いの妙」というべきもので、思いがけない一曲との出会いは人生の彩であって、私はこれを、Fall-in-loveに比すべきものであると考えています。

ピアノサークル ピアノを弾きたい!

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