今回はピースについて。
芥川賞取ったお笑い芸人さんではありません。
ピースってのはあれです。全音ピアノピースのことです。クラシック弾きであれば,何冊かは持っているのではないでしょうか。
僕もショパンやべートーヴェンなど合わせて10冊くらいは家にあるかと思います。初めて買ったのはピアノに目覚めた中学生の頃でしたが,当時はネット環境もなかったため,amazonのように注文することもできず,ましてやIMSLPなどという便利なサイトも無かったので,楽譜はYAMAHAや山野楽器に毎回足を運んで買っていました。懐かしい。
そしてよく見ていたYAMAHAのピースのコーナー。中3で英雄ポロネーズの楽譜を初めて見た時,左手のオクターブ地獄に戦慄したのを今でもよく覚えています(笑)
さて,このピアノピース,割と謎が多いと思うんですよね。
ということで今回は,ピアノピースについて迫ってみたいと思います!
■難易度について
PH会のメンバーがピースの話をしているな…なんて思って聞いてみると,大抵は難易度の話だったりします。
ピアノ弾きにとって曲の難易度は気になるものです。憧れの曲がどのくらいの難易度で,自分の弾ける曲がどの程度の難易度なのか,自分のレベルを知り,取り組む曲を選ぶのにも,ある程度の基準や目安っていうのはあってもいいのかなと。
そして,ご存知の通り全音ピアノピースの裏側の曲目にはA~Fの難易度も記載されており,様々な時代の様々な作曲家の名曲と難易度を一覧できる点で,非常に参考になるわけです。
とはいえ,ピースの難易度は時々,「それは違うでしょ!」って感じるのも割とあるのではないでしょうか。
例えばショパン。ノクターン2番や「雨だれ」がEで,華麗なる大円舞曲がD!? ということは表現力重視の評価なのかと思いきや,深みのあるマズルカはBやCだったり。エチュードは揃ってFだけど,「エオリアンハープ」と「木枯らし」にはわりと開きがあるよなとか思っちゃったり。
そのほかにも,ベートーヴェンのソナタ19番20番は全楽章弾いてBだけど,サティのジムノペディはCだったり。あとラフマニノフの幻想小品集,適当にCとかDとかつけてやしませんかとか思ってしまったり(笑) あと,「カンパネラはFだろ!」という声も度々聴きますね。
いや,もちろん曲の難易度なんて人それぞれだとは思いますが,どうしても突っ込みたくなってしまいます。
ちなみに最新版のピースには以前の版にはなかった「※難易度は目安です」という記載があります。全音さん色々ツッコミを受けたのでしょうか。
いったい誰がこの難易度を付けたのか,そして,変更されることはないのか。謎です。
■選曲と曲順の謎
「ピース」として個別に販売するからには,それだけ人気がある作品を抜粋して選んでいるはず! そう思って見ると,確かに名曲が揃っているのは間違いないのですが,よくよく見ると,いや,よくよく見るまでもなく,そうでないものも多いぞ。そもそも知らない人の知らない曲多すぎないか!?
試しに冒頭から順番に見ていきましょう。
栄えある1曲目はベートーヴェンの「月光」ソナタ! いや,これは確かに名曲中の名曲です!ピアノソナタの伝統を破った歴史的な曲でありながらもドラマティックで聴きやすく,人気も高いですからね。「月光の曲」と表記しているあたり,やや昭和初期の臭いを感じますが,まあいいでしょう。
そして2曲目は「エリーゼのために」。
なるほど,ピアノ学習者の90%以上が通過するであろう名曲ということに鑑みれば,これも至極妥当な選曲と言えるでしょう。ベートーヴェンが続いていますが,ここまでいい流れですよ!
さて次はというと,
3曲目,ワイマン作曲「銀波」
…
…いや,誰?
ちょっと待って。音楽の父バッハや,天才モーツァルト,ピアノの詩人ショパン,シューマン,ブラームスその他の大作曲家の面々はどうした? 名だたる作曲家たちを抑えての3番目の登場ですよワイマン氏。ワイマンそんなに有名なんでしょうか? 実は凄いんでしょうか? むしろワイマンを知らない自分が恥ずかしいんでしょうか。
…などと思って少し調べてみたけど,全然情報が出てこない!
日本語のWikipediaには独立したページないし,ピティナのサイトにも銀波しか載ってない! どういう経緯で3曲目に選ばれたのでしょうか(笑)
さて,そのあとも見ていきましょう,
4番目,「トルコ行進曲」(モーツァルト)…安心した!(笑)
そうそう,こういう万人が弾く名曲を選ばないと!
続いて,
5曲目,トロイメライ&ロマンス(シューマン)
6曲目,メンデルスゾーン「狩りの歌」
うん,ようやくまともな流れに戻ったようです。良かった良かった。で,次は?
7曲目,エルメンライヒ作曲「紡ぎ歌」
…誰?
いやいや待ってくれ,ワイマンを除けば大作曲家による名曲揃いのいい流れだったじゃないか(ワイマンに失礼!)。モーツァルト,シューマン,メンデルスゾーンと来て,まさかのエルメンライヒ! 誰!?
みんな知ってるんですかね。情弱の僕が知らないだけなんでしょうか。とはいえ,音楽室にエルメンライヒさんの肖像画無かった気がするし,失礼ながらベートーヴェンやモーツァルトなんかと肩を並べる作曲家ではないような…
ちなみにWikipediaによると,
「彼の作品や生涯についてはほとんど明らかになっていない。 しかし、彼の曲で唯一知られているのが『紡ぎ歌』である。」
…なるほど。
彼を忘れないために,彼が生きた証を残すために,弾きましょう。「紡ぎ歌」を。
さて,その後もシューベルト,ショパン,グノー,チェルニーなどと安牌が続き,バダジェフスカの乙女の祈りも出てきます。なにげショパンの最初の曲が軍ポロというのも意外ですね。
そして18番,カリニコフ! あの素晴らしい交響曲を書いたロシアのカリニコフ,ピースに登場してたんですね。うん,でもマイナーだ! 失礼やけどあんたロシア勢のスタメンちゃうやろがいっ! ロシアの最初に出てくるのチャイコ先輩やないんかいっ!
その先も,有名作曲家の間に「誰!?」って人が時々現れます。
23番 ゴダール
27番 イラディール
33番 チブルカ
49番 ミヒャエリス
75番 フロトウ
…15年以上前からピース持ってるのに,こいつらの名前全然見たことなかった(笑)
よくよく観察すると,知らない人の知らない曲が次々出てきますね。歴史上殆どの作曲家が忘れ去られたことを考えれば,1曲でもピースに名を刻んだことは快挙なのかも。とはいえ,販売部数は気になりますね。
ウンラート作曲の「カール王行進曲」は一体今までで何部売れたのか。
そしてその少し先をよく見ると,
87番 「森のこだま」 ワイマン
ワイマン2曲目キタ!!
しかしまあ,並び順も時代別,作曲家別とかいうわけではなく,ぐちゃぐちゃですね。どういう基準で選ばれているのか謎だけど,逆にマイナー作曲家の珍曲が入っているのは面白いですよね。お薦めの珍曲があったら教えてください。
■欠番について
200番台前半まではギッシリ曲が詰まってますが,200番台中盤から欠番が出始めます。246,252,257~260,271,272…300番台はもっと多いですね。
元々曲があったのが抜けたのか,だとしたらどうして抜けたのか,著作権の関係とか色々あったのか,300番台の大量の欠番はどうしてなのか。元々なかったのか。謎です。
あ,あと最近では92番の「主よ哀れみ給え」(バッハ=高橋)は欠番のようですね。
■後半現れる怒涛の日本人勢
日本人作曲家がピースに出てくるのは,142番の吉本隆行が最初ですが,その後200番台中盤あたりからいきなり増え始めます。ラフマニノフと肩を並べる怒涛の橋本国彦!すいません,橋本さんの曲聴いたことないです(笑)
後半はさらに勢いを増す日本人勢,聴いてみると実はいい曲がたくさんあるのかもしれません。なお,個人的なお気に入りは平井康三郎の「幻想曲さくらさくら」で,特に外国人ウケすること間違いなしだと思います。
公式サイト等によれば,全音ピアノピースは,まだ戦争の余韻も生々しい昭和20年代に最初の60曲が出版され,その後高度経済成長で各家庭にピアノが普及するに伴い100曲,200曲と増えていったそうです。
日本人勢の登場は,最初の出版からしばらく経ってからのことのようですね。
しかしどうやって選ばれるんだろ。
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さて,色々と書いてきましたが,ピースは現在も新刊が出続けているようで,今は584番まであるそうです。
「水の戯れ」や「泉のほとりで」がピースになっていたとは知らなかった。
自宅にあるピースの表の中に,名曲が隠れているかもしれません。
ピースに載っている知らない作曲家を調べたり,知らない曲を片っ端から聴いてみるのも面白いかもしれませんね。
ではまた。
S.T