「Mさん、ラヴェル 弾いてください。」
数年前にピアノ仲間から言われ、嬉しいような訝しむような、不思議な気分だった。本人に聞きそびれたので理由はわからないが、私に似合いそうと思ってくれたことにしたい。
それまでクラシックやポップスを色々と弾いてきて、同じ近代フランスものドビュッシーやプーランクには触れたが、ラヴェル はやったことがなかった。
「道化師の朝の歌」は大好きだったが、ハードルが高すぎるし、ほぼ不可能。
気になって色々音源を聴いた。まずは小さな作品からと、「ボロディン風に」と、「ハイドンの名によるメヌエット」を弾いてみた。途中、ものすごく弾きにくい部分があるが、なんとか(大量の臨時記号と格闘し)読譜はできた。ハイドンの〜は、私のピアノを煩がる娘が、「病弱な美少年が別荘の窓辺で弾いてるみたいな曲(褒め言葉)」と、気に入ってくれた。
「ソナチネ第2楽章」は、当時勤めていた図書館に所蔵のあった、坂本龍一のcommmons:schola(コモンズスコラ)CDブック第4巻Ravel-でおススメされていて大変気に入り、楽譜を買ったけれど8小節ほどで挫折した。「クープランの墓」も好きだなと楽譜を買ってみたが、プレリュード2ページめの左手が半音ずつ下がる和音の連続するあたりでやはり譜読みを断念してしまい、ラヴェル のことはすっかり忘れかけていた。
その後東京に転居してPH会に入会し、半年ほどたった昨年の秋頃、練習会にてラヴェル のソナチネ第1楽章が聴こえてきた。この春定演で全楽章を弾かれた方の演奏だった。「わー素敵これなんだっけ?聴いたことある!ドビュッシー?あ、ラヴェル だ!」と、メンバーさんとはしゃいでいた。ラヴェル と再会した瞬間だった。
PH会の練習会は、音源やプロのコンサートで聴くものだと思っていた曲や、未知の曲を弾く方が沢山いらっしゃるので、毎回大変刺激的である。
早速、8小節で挫折した楽譜を取り出して、次の演奏会で弾こう!と唐突に心に決めた。読譜をやり直し、ゆったりとした、緩急のある務川慧悟さんの音源を参考にテンポ感を掴んでいった。
とくに最後の4小節が大好きで、そのために曲全体があるような気すらしている。
本番は先月、三鷹芸術文化センター風のホール。ひょんなことからプログラム1番での演奏が決まり、もう逃げも隠れもできない(大袈裟だが本人は至ってまじめ)。静かに気合いが入った。
湖の上を彷徨う霧がかった大気と木漏れ日、不穏に立ち込める雲、最後は光がパァッと差して希望とともに思い出がよみがえる。みたいなストーリーをイメージしていたが、、ミスタッチを恐れるあまりに、大地を一歩一歩踏みしめるような始まり方になってしまった!ソフトペダルを沢山練習したのに、本番はほとんど使わずppをフォルテでパーンとやってしまったり!しつつも、後半はだいぶ落ち着いて表現できたように思う。
演奏後、みなさんからのあたたかい拍手がとってもありがたく、そして嬉しかった。
ラヴェル の作品は、PH会でとても人気があるそうで、同じ曲を演奏会で弾いたよ!という方に沢山お声がけいただいた。覚えているだけで5人。練習会で弾いていると、手がクロスする不協和音の部分で「わー、ここが※〃△×○!」と盛り上がってくださったり、楽しかった。
また、ゲーム音楽が好きな方からも、ラヴェル を弾いていると、これは何の曲ですか?と聞いてもらえたりする。通じるものがあるらしく嬉しい。
今回の定演でも、ボロディン風に、ソナチネ全楽章や、「ラ ヴァルス」の超絶技巧な連弾をされる方の生演奏も聴けて、それはそれは、、、本当に華麗で圧巻でブラヴォーだった!!(そしてメンバーさんによる素晴らしい録画が共有され、繰り返し楽しませていただいている。なんというサーヴィス!)
時を同じく、2月20日の夜『題名のない音楽会』の収録観覧に当選しオペラシティコンサートホールに行ってきた。(いつも初台のピアノ練習会の帰りにPH会の皆さんで二次会をやるオペラシティだが、ホールに入るのは、その数日前の「ジェットストリーム・コンサート」の時が初めての経験だった。)
内部は教会みたいな作りで、音響効果の高いコンサートホール(青い光はジェットストリームの演出)
題名のない音楽会収録の演目は当日まで知らされなかったのだが、行ってみてびっくり!それは活躍する国内の若手音楽家に与えられる、出光音楽賞の授賞式とガラコンサートだった。
心の師、務川慧悟さんはなんと、お得意なラヴェル のピアノ協奏曲ト長調をピカピカの燕尾服で演奏されていた。
ムチのパーンという音で、パーカッションやピッコロから賑やかに始まる有名な協奏曲だが、不協和音さえ軽やかに澄みわたるピアノは、夢のようで最高だった。
ヴァイオリンのソリスト2名も確かな実力に加え、個性が本当に素晴らしかった。
みなさん、これからも沢山ご活躍されるに違いない。
(TV放映は3月22日(土)の予定。)
今は、連弾曲の譜読みをしている、モーリス・ラヴェル の作品。今年は他にも鑑賞や演奏の機会があることを期待している。
(M.M記)
本日の練習曲♪
ロマンティックなワルツ/セヴラック
パガニーニの主題による狂詩曲より第18変奏/ラフマニノフ (連弾)
マメール・ロワより「パゴダの王女レドロネット」/ラヴェル (連弾)
他