どうも、T.N.です。
10月4日、横浜でのサウナ合宿に参加しました。久しぶりのボウリングで盛り上がり、サウナも最高に気持ちよく、良いリフレッシュになりました。サウナ後には宴会もあり、お酒を飲みつつメンバーどうし色々お話することもでき、本当に充実した一日でした。
さて、今回の日記は前回の続編です。
大阪でのストリートピアノ巡りを楽しんだ金曜日、筆者はそこで居合わせた青年に誘われ、翌日も彼のおすすめのストリートピアノを巡るため、大阪に泊まることにしました。
翌朝、宿を出てまず向かったのは、「飛行場で弾こう」ということで伊丹空港です。
※過去の「飛行場で弾こう」シリーズは以下をご覧ください。
新千歳空港
羽田空港
モノレールの駅の改札を出ると、そこにはカラフルなペイントが施されたグランドピアノが置かれていました。
伊丹空港のある豊中市では、かつて小学校で使われていたピアノ2台を活用し、それぞれ「緑(みど)」と「宙(そら)」という愛称をつけて空港内にストリートピアノとして設置しているのだそうです。こうして長年子どもたちのそばにあったピアノが、第二の人生を歩み出していることは、本当に素晴らしいことだと感じました。
早速こちらのピアノ、「緑」を弾かせていただくことにしました。ここではベートーヴェンのソナタ31番から3楽章を演奏。グランドピアノらしい力強い響きがとても印象的でした。このピアノは駅からターミナルへと続く動線上にあり、キャリーケースを引いた方々が絶え間なく行き来していましたが、何人かの方が足を止めて耳を傾けてくださったのが、何より嬉しかったです。
次は北ターミナルの4階へ向かいました。こちらには休憩スペースが設けられていて、その一角にもう一台の「宙」が置かれていました。このピアノも「緑」とはまた一味違う、鮮やかで目を引くデザインです。
そばにはテーブルがいくつかあり、コーヒーを飲みながら飛行機を眺める人、家族でゆったり会話を楽しむ人などがいて、とても落ち着いた時間が流れていました。
ここではベートーヴェンのソナタ30番から1楽章を演奏しました。ピアノは十分に消音されていて、あまり気兼ねなく演奏できる環境。優しい音色が空間全体に柔らかく響き、それがとても心地よく感じられました。
空港で2台のピアノを満喫したあとは、モノレールと阪急電車を乗り継いで豊中市内を南へ進み、庄内駅で下車しました。
駅前の商店街には、こんなキャッチコピーが掲げられ、ダジャラーとしては反応せずにはいられませんでした。
駅からすぐの場所には、どこか昭和の雰囲気を残す豊南市場が広がっています。中に入ると、狭い通りに魚や野菜の店が並び、地元の人たちでにぎわっていました。
市場の中を進んでいくと広場があり、小さなステージが設けられていました。そして、そこにはグランドピアノが置かれていました。
「ご自由にお弾きください」と書かれていて、ここでも演奏できるようです。
ピアノを弾こうとしたところ、一人の女性に声をかけられました。
「これから絵本の読み聞かせイベントをするので、ちょっと待っててくださいね。またあとで聞かせてください。」
笑顔でそう話してくださったのは、石浜繁子さん。この豊南市場で月に2回、絵本の読み聞かせ会を開いているのだそうです。
※石浜さんの活動については、こちらのインタビュー記事も合わせてご覧ください。
【インタビュー】石浜繁子(えほんのおうち ゆめのき文庫主宰、保育士・80歳)「70歳まで保育園で働きました。この年になって天職に巡り会うこともあるのです」
やがて読み聞かせ会が始まりました。ステージの脇には、ずらっと絵本が並んでいて、その中には子どものころに読んでもらった懐かしい本の姿もありました。ページをめくる音とともに、どこか遠い日の記憶がよみがえってくるようでした。
石浜さんのあたたかく包み込むような語りぶりに心を打たれました。
大人になってから絵本の世界に触れる機会はほとんどなくなっていましたが、こうして耳を傾けてみると、シンプルな言葉の中に込められた想いの深さに、改めて良さを感じました。
次第に広場には人が集まり、親子連れやご年配の方たちが立ち止まって聴き入っていました。読み終わると、会場のあちこちから自然と拍手が湧き起こりました。
石浜さんがこちらに歩み寄り、言いました。
「次は“母の大いなる愛”のお話を読もうと思うの。お兄さん、何かお話に合う曲ってないかしら?もしよかったら、読み聞かせに合わせて弾いてもらえますか?」
筆者はうなずき、読み聞かせに合わせて演奏させていただくことにしました。
選んだ曲はベートーヴェンのソナタ31番から1楽章。
「con amabilità(愛をもって)」という言葉が添えられたこの楽章は、母の愛をテーマにしたお話にぴったりだと感じました。
作品は、にしもとようさんの『生まれてきてくれてありがとう』。
石浜さんのやわらかい声が市場の広場に響き渡り、物語が静かに流れていきます。
絵本の世界の愛に溢れる言葉、その一つひとつに合わせて、音をそっと添えていきました。
会場はしんと静まり返り、買い物に来ていた人たちも、いつの間にか立ち止まって耳を傾けていました。読み聞かせとともに演奏を終えると、会場から温かい拍手が送られました。
イベントが終わったあと、石浜さんと少しだけお話をしました。ここで長く活動されていること、そしてこの読み聞かせの時間がご自身にとっても大切なひとときであることなど、語ってくださいました。彼女の思いを知り、筆者自身心を揺さぶられました。素敵なセッションをさせていただけたことのお礼をお伝えして、お別れしました。
そこへ、昨日ここを紹介してくれた青年が姿を見せました。
「あ、T.N.さん!本当に来られてたんですね」
彼はステージに向かい、静かに腰を下ろしました。
曲は昨日と同じ、ショパンのノクターン。柔らかくも深みのある音色が市場の空間に溶け込んでいきます。前日に聴いたときよりもさらに表情豊かで、音の一つひとつに心が込められているようでした。最後の和音が静かに響き終わると、自然と拍手が起こりました。
演奏後、筆者はここでの体験のことを彼に伝え、この場所を紹介してくれたことへの感謝を述べました。
彼は、
「ここ、いい場所ですよね。本当に温かい雰囲気ですごい気に入っているんです。」
と語ってくれました。
「また大阪で会いましょう。関東に行ったときは、そちらのストピのことも教えてください。」
短い時間ながら、音を通じて人とつながる喜びを改めて感じた瞬間でした。互いに再会を約束して、その場を後にしました。