どうも、T.N.です。今日も元気にストリートピアノ日記を書いていきたいと思います。
※今回の日記は、「岐阜・愛知ストピ巡り編」の続編です。
一宮で素晴らしいピアノでの演奏を楽しんだ筆者。そこで出会った方が「ぜひ弾いてほしい」と教えてくれたピアノがあるということで、足を運ぶことにしました。
JRで名古屋まで出て、地下鉄東山線に乗り換えて2駅目の本陣駅で下車します。
改札を出るとすぐ横に、ガラス張りの小さなギャラリースペースがあり、壁には絵や写真が静かに飾られていました。その一角に、1台のアップライトピアノが置かれていました。名古屋の姉妹都市であるフランス・ランス市をモチーフにしたペイントが施されており、ノートルダム大聖堂の絵がとても印象的でした。
ギャラリー内には私ひとり。静かな空間の中、さっそくベートーヴェンのソナタ第31番 第3楽章を弾かせていただきました。鍵盤に触れると、今までに経験したことがないような豊かなエコーが返ってきて、その響きに思わず息をのみました。ペダルをほとんど踏まずとも音が広がり、フーガの旋律が重なり合うたびに、空間の中に優しく響いていくのを感じました。
ガラス越しに外の様子は見えるものの、視線は気にならず、静けさに包まれた中で心穏やかに演奏と向き合うことができました。ここを一押しだと教えてくれた彼の気持ちが、とてもよく分かったように思います。
本陣駅でのひとときを胸に、再び地下鉄に乗り名古屋駅へ。向かったのは、駅直結のJRセントラルタワーズの2階。桜通口に面した人通りの多い場所ながら、通路の端のほうに、1台のグランドピアノがひっそりと置かれていました。ピアノには、龍や猫、そして色とりどりの花々などが描かれており、思わず目を引かれます。にぎやかな構内に、こうしたアートと音楽が交差する場所があることに、ほっと心が和みました。
筆者が着いたとき、ちょうど男性お二人が弾きに来られていて、そのうちのお一人が演奏されていました。曲が終わると、「次どうぞ」と声をかけてくださり、ありがたく代わらせていただきました。
ここでは、ベートーヴェンのソナタ第30番 第1楽章を弾かせていただきました。
消音処理が施されているため音は控えめでしたが、1968年製と年季の入ったピアノながら調律が行き届いていて、やわらかな響きに包まれました。
演奏を終えると、お二人が拍手を送ってくださり、先ほど演奏していた彼が声をかけてくださいました。
「30番、私も好きな曲なんです。生で聴けて良かったです。」
落ち着いた物腰で話しかけてくださるその方と、自然とベートーヴェンの話題になりました。話を伺うと、現在は「月光」を練習されているとのことで、「3楽章はよく弾いているんですよ」と穏やかに仰りました。
するとそのまま、「よければ月光、少し弾いてもいいですか」とおっしゃり、ベンチに腰を下ろして演奏を始められました。強靭なリズムと繊細なニュアンスの両立したその演奏に、筆者は聴き入りながら、自然と背筋が伸びる思いがしました。
続けて、筆者も月光の1楽章を演奏させていただきました。思いがけず、“月光メドレー”のような形での共演となり、とても嬉しく、また心に残るひとときとなりました。
その後、再び言葉を交わす中で、その男性が「休みの日って、なかなか家から出るきっかけがなくて。でも、ストリートピアノがあると“弾きに行こう”って自然に体が動くんですよ。そうすると、充実した休日を過ごせた気がするんです」と話してくださいました。その言葉に、筆者も深く頷きました。
音楽を介して誰かと出会い、言葉を交わす。
それだけで一日が豊かに感じられるのは、やはりストリートピアノならではの魅力だと思います。
名古屋駅という大都会の中心にありながら、この場所にはどこか時間の流れがゆっくりとしていて、喧騒の中でも心が穏やかに保たれるような、そんな特別な空気がありました。短い時間でしたが、思いがけない共演と交流に恵まれ、とても心に残る時間となりました。
ここで一句。
和やかな あゝ和やかな 名古屋かな
ちなみに、このピアノには少し特別な経緯があります。もともとは隣接するビル「JRゲートタワー」の15階に設置されていたもので、窓際のとても眺めの良い場所にありました。開放的なフロアの一角で、人通りも多く、名駅の街を一望しながら演奏できるということもあって、非常に人気の高いストリートピアノスポットでした。私自身も、2022年の夏にその場所を訪れたことがあります。
当時は多くの人が訪れていて、演奏までにかなりの行列ができていたのをよく覚えています。でも、列に並んででも弾きたくなる魅力がそこにはありました。景色を眺めながら、素晴らしい環境の中で演奏できたことも印象深かったのですが、それ以上に、聴いてくださる方々が一緒にその空間を盛り上げてくれるあの一体感が、何より嬉しかったのです。
しかしその場所は、カフェに面した通路沿いにあり、人が滞留しやすい構造だったということもあってか、ピアノの演奏をめぐって苦情も少なからず寄せられていたようです。その結果、2023年3月には残念ながら演奏が休止されるに至りました。
それでもこうして再び、違う場所ではあっても、またこのピアノに触れる機会が与えられたことは、本当にありがたいことです。(ピアノを管理する名古屋市が、2023年11月、この場所を選び再設置に踏み切ってくださったということです。)
ストリートピアノは、その存在自体が公共性の中にあります。だからこそ、ただ演奏できることに甘えるのではなく、周囲との調和を意識しながら、その場の空気に寄り添った音を紡いでいくことが大切なのだと、改めて感じました。
【今日の飯テロ】
この日は名古屋名物、台湾ラーメンをいただきました。舌がしびれるほどの辛さでしたが、それがかえって食欲をかき立てました。
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