発表会,おつかれさまでした!
川口ではスタッフとして,武蔵野では演奏者として,荒川では観客として参加し,幸運にも殆どの演奏を生で聴くことができました。このような素晴らしい機会を与えてくださった各スタッフと運営の皆様,そして演奏者の皆様には,ただ感謝あるのみです。実を言えば,最初3会場でやることにはやや懐疑的だったのですが,結果3会場で本当に良かったと思います。
とにかく,こんなに大勢の人たちの真剣な演奏を一気に聴く機会と言うのは滅多になく,今回も得難い多くの刺激を受けました。中にはあまりの素晴らしさにブラボーを叫んでしまった演奏もあります。自分では絶対聴かない曲を聴けたり,個性豊かな演奏に触れることができるのが,発表会の醍醐味であり魅力ですね。
さて,自分の演奏を振り返るとですが・・・80点くらいかな(完璧な演奏と比較してではないです。普段の自宅での自分の演奏と比較してです。)。
やっぱり本番にトラブルはあるもので,1曲目のコンソレーションでは,冒頭で使い慣れない真ん中のペダルを踏もうとしたら隣のペダルも同じ足で同時に踏んでしまい,焦って一瞬頭が真っ白になって左手の音が抜け落ちてしまったり,音量のコントロールに気を取られすぎて楽しめなかったり。2曲目の超絶では冒頭からズッコケる寸前でしたし,要所要所で音を外すし,コーダも雑でした。
その他反省点は多々ありますが,他方で,2曲のコントラストを表現すること,そして特に超絶のほうは緩急つけて迫力と緊張感・切迫感をめいっぱい出すことという目標は,ある程度達成できたかなと。リストの魅力を少しでも感じていただければ幸いです。
ところで,超絶技巧練習曲って,凄い名前ですよね。超絶技巧って自分で言っちゃうあたり,リスト様なのでしょう(笑)
ただ,この「超絶(transcendante)」には,「精神的な超越」という意味もあり,決して技術をひけらかすだけの曲集ではないようです。演奏技巧と情熱の相乗効果とでも言いましょうか,まさしく心技体が一体となった時の物凄い音楽の世界をリストは知っていて,それを目指したのだと思います。
この曲集では第4番の「マゼッパ」がやたら有名ですが,個人的に一番好きなのは11番の「夕べの調べ」。印象派につながるような美しいアルペジオの響きと,荘厳な鐘の音を思わせる重和音が感動的な曲です。どちらかというと,愛の夢やため息,ペトラルカのソネット系ですね。
そして,次に好きなのが今回演奏した第10番。ほの暗い不安なメロディーはちょっとショパンっぽいけど,技巧は紛れもなくリストのものです。なんといっても疾走感がカッコいい! そのほかにも,穏やかでうっとりする美しさの3番「風景」や,ショパンらしい甘さにあふれた9番「回想」,鬼気迫るトレモロと音階で粉雪と風を表現した12番「雪嵐」など,魅力的な曲が盛りだくさん! ショパンエチュードとは全然違いますが,本当に魅力的な曲集です。
この曲集,当初は15歳のリストが48曲を目指して作曲を始め,改訂に改訂を重ねて紆余曲折を経て完成したという経緯があります。
特に第2稿(1837年版)は20代のエネルギーに有り余っているリストが書いたバージョンだけあって,異常な難易度だそうです。第10番の第2稿も,無駄に難しいのにごちゃごちゃしてややまとまりがない印象です。この時代のピアノの限界に挑戦するような響きでカッコいいのですが…ぶっちゃけ,こんな曲誰が弾きたいと思うんだって感じです(笑)
その後の1852年,ついに完成形が生まれるんですね。構想から26年。これだけ長く構想を考えていたということは,この曲集によっぽど思い入れがあるのかもしれません。「僕はピアノのパガニーニになる! そうでなければ狂ってしまう!」と言って,超絶技巧の道を追い求め突き進んだリストですからね。この決定稿では,無駄な部分は削ぎ落されて洗練された構造となり,魅力的な響きに溢れています。このあたり,カンパネラで有名なパガニーニ練習曲と同じような道筋を辿っていますね。初出の時期も改訂の時期もほぼ同じで同じ経緯を辿っていることを見ると,「超絶技巧練習曲集」と「パガニーニ練習曲」は兄弟みたいなものといえそうです。「パガニーニ練習曲」のほうは,パガニーニへのリスペクトを込めて,パガニーニの旋律を使った曲が多いのに対し,「超絶…」のほうは完全オリジナル。独自に超絶技巧曲集を出すことは,まさにピアノのパガニーニになることであり,そう考えると,リストがこの曲集に強い思い入れがあったのも理解できます。
ところで,1852年といえばショパンの死後3年。リストの名曲が続々と完成したのは,このあたりなんですよね。洗練された無駄のない構造にするという点で,リストはショパンの影響を物凄く受けたのだと思います。「ショパンはまさに魔術的な天才でした。彼と肩を並べる者は誰もいません。芸術の空には、ただ一人彼だけが光輝いているのです。」とは,リストの言葉。
もしショパンがリストのペトラルカのソネットや愛の夢,ラ・カンパネラを聴いたら,何と言ったのでしょう。
さて,リストについて熱く書いてしまいましたが,発表会を終えてピアノ熱が高まった人は僕だけではないはず。次の練習会が楽しみです♪
S.T.