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  3. 【メンバー日記】実家のサクランボの話

私の実家の玄関には食べられるサクランボがなるサクラが植えられている。

今から10年ほど前、それまで植えられていた木が枯れた際、父が家族に相談もなしにどこからか手に入れ、知らぬ間に植え替えていたものだ。
植えた本人に何の品種か聞いてみたのだが、よく分からない、忘れた、と言う。
どうせ花の観賞用だろうと思い、家族の誰も実を食べようとはせず、なってもヒヨドリたちに全て食べさせてしまっていた。

2年後の春、たまたまうちの前を通りがかって花を見ていた人が、「これはシナミザクラといって食べられる実がなるんだよ」と教えてくれた。
その言葉を信じ、しばらくして実がなると2、3粒収穫して食べてみた。
大きさは1センチちょっとと小さいが確かにサクランボの味がする。しかもスーパーで売っているものよりも味が濃くて美味しい。
自分の家でサクランボを収穫して食べられるなんて夢のようだ。

それ以来、毎年実のなる季節を心待ちにし、見つけては収穫して少しずつ食べていた。

実を食べ始めてから確か3年目、特に何かしたわけでもないのにビックリするほどの大豊作になった。
毎日赤くなった実を少しずつ収穫してはせっせと食べ、使ったのは数十粒程度だが小瓶一個分のシロップ煮も作れた。

普通の家の玄関の木に真っ赤なサクランボが鈴なりについている様子はそれなりに話題を呼んだらしく、たびたびご近所さんたちが見に訪れていた。
花の時期以外にも色々な人に楽しんでもらえたのはなによりである。
日持ちが悪いのであまりたくさんお裾分けできなかったのは残念だ。

そして興味津々なのは人間だけではなかった。
獲りきれずに大量に残していた実を食べに、ヒヨドリも例年以上によくやって来た。
人間がすぐ近くを通っても飛び立たず、夢中で食べている。

困ったことに、そのヒヨドリたちを襲いに、カラスもたびたびやって来るようになった。
フンを落とされることはもちろん、居着いて近隣のゴミを漁るようになると問題になるのでかなり困る。
私の家族もご近所さんも、見かけるたびに毎度追い払おうとしたが、まったく懲りずに何度もやってきた。

そんなある日、母が近所の奥様たちと、うちの前でサクランボをつまみながら立ち話をしていると、カラスが飛んできた。
皆で追い払わなければとあたふたしているうちにヒヨドリに襲いかかる。
すると、向かいの家の奥様が「私に任せて!」と言うなり「コラーーーーーーーッ!!!」と叫びながらカラスに向かっていき、手に持っていた紙袋を大きな音を立てながら思いっきり振り回してくれた。
これでカラスはいたく驚いたらしくすぐに慌てて飛び去っていき、それきり姿を見せなくなった。

あとで母は、向かいの家に厳選した赤くてきれいなサクランボをお礼に持って行っていた。

追い払ってもらったおかげで人間もヒヨドリもカラスに困らされる心配はない、良かった良かったと思っていた。

ところがヒヨドリたちも驚いていたのか全然来なくなってしまった。
遠巻きになんとなく様子を伺っているようなものもいたが、結局食べに来てはいないようだった。
「なんだかものすごく罪なことをした気がするなぁ…」とは思ったが、ヒヨドリに食べてもらう予定だった分もしっかり収穫して遠慮なくいただいた。

翌年からあまり実がならなくなった。花はどの枝も綺麗に咲くのだが、どういうわけか実にならない。
一度だけまあまあなった年もあったが、収穫しようとしたその日に急な暴風雨でほとんど地面に落ちてしまった。
なんとなく罪の記憶が頭をよぎる。

いつの間にかヒヨドリたちは戻ってきていて、人間の手の届かないところに少しだけなっていた実を見つけて食べていた。
地面には咥えかけて落としたと思われる実が転がっていた。

先日、自販機でサクランボのドリンクを見つけてなんとなく買ってみた。
飲むと甘さと酸味のバランスがよく、爽やかで美味しい。
2、3口飲んだところで「そういえば前にうちのサクランボで作ったシロップを水割りにして飲んだなぁ…美味しかったなぁ…」とふと思い出した。

今年もほとんど実がなっていなかった。
真剣にヒヨドリに謝ることを考えなければと思った。

I
ピアノ歴:小2〜中3+大人になってから
好きな作曲家:ドビュッシー、ショパン、ニーノ・ロータ
趣味:映画鑑賞、美術鑑賞、洋裁

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