ショパンのピアノ協奏曲はオーケストラが貧弱と言われているが、世の中の人がなんとも言わば言え、私はこの作品が大好きである。特に一番のホ短調作品11は、作曲された時期は二番のヘ短調作品21より後ではあるが、若いショパンの挑戦心が感じられる。一楽章は荘厳な冒頭、最終部の連続左手トリルが印象的だ。二楽章はノクターン的な柔和なメロディがコンソレーションを彷彿とさせる。論文執筆で行き詰まった脳味噌を聴くことで和らげた大学院時代を思い出す。第三楽章。Rondo Vivace。明るいピアニスティックな旋律が形を変えて何度も現れ、心を掴んで離さない。何回聴いても飽きない。
もちろん好きなピアノ協奏曲はショパンものだけではない。ハイドン、モーツァルト、ベートーベン、シューマン、チャイコフスキー、グリーグ、ラフマニノフ、ラベルのそれなど枚挙に暇がない。それぞれの意気込み、魅力に満ち溢れていると思う。どれも甲乙つけがたいし、演奏はさておいて、鑑賞は好きである。あえて好きな作品を挙げるとすればモーツァルトの23番、ラフマニノフの3番だ。休日の朝は、だいたいどちらかを聴きながらコーヒーを淹れるのが習慣になっている。
十年以上前のこの季節、私が初めて親に買ってもらったCDはブレンデルによるハイドンのピアノソナタだった。親は適当に中古のCDを買ったようだ。姉は当時流行っていたSPEEDの新譜を買ってもらっていた。新品、ということだけが少し羨ましかった。中古のCDにあまり期待もせず聴いてみると冒頭部分からして、脳天に金槌を食らったような衝撃を受けた。ホ短調ソナタの出だしのスタッカート。二楽章の優美な旋律。緊張と緩和のコントラストが美しい三楽章。私にとってSPEEDのCDよりも価値のある贈り物であり、今でも最高の宝物である。
一方、自分で初めて買ったCDはショパンのPコンであった。廉価版であったせいか、演奏は誰だったかは忘れてしまった。個性のない演奏であったと覚えているが、当時の私を魅了するには十分だった。それからであろうか、ショパンのPコンは私にとって特別な存在となった。今まで1番、2番ともに様々な奏者の演奏を聴いてきた。ルービンシュタイン、アラウ、アシュケナージ、ポリーニ、アルゲリッチ、ワイセンベルグ、ツィマーマン、ピリス、バレンボイム、ダンタイソン、ルイザダ、ブーニン、ランラン、ブレハッチ、横山幸雄、キーシン、ユンディ•リ、ブレハッチ、ユリアンナなどなどである。廉価版のものも含め、CDで入手可能な音源は出来る限り聴いた。上にあげた人のほとんどがショパコンの出場者で決勝まで行っており、インターネット上でも視聴した。
この中で敢えて一番の演奏を選ぶとしたらワイセンベルグだろうか。恥ずかしながらあまり彼のことは知らなかったのだが、一瞬にして引き込まれた。オケが良かったというのもその一助だろう。あとはダンタイソン。彼自身の境遇を考えると、やはり涙は禁じ得ない。ブーニンについても然り。ただ最近の彼についてはかつての輝きが失われてしまったのではないかと感じられる。ルービンシュタインは教科書的な演奏ではあるものの、辛口にいうなら没個性的。
このようにショパンのピアノ協奏曲については、もう主要な音源は聴いて、特に新しい発見などあるものかとさえ思っていた。ショパンのピアノ協奏曲ってあんな曲ねってイメージが固まっていた。固定観念ができていた。しかし、その固定観念をぶち壊す、さらにすごい演奏があったのだ。
会社帰りにふと立ち寄ったレコード屋。雑多な店内の片隅に積まれてあった中古のCD。曲目はショパンピアノ協奏曲一番、二番。演者はサンソンフランソワ。フランソワの名前は以前から承知してはいたが、演奏を聴いたことはなかった。迷わず購入し、家の隣に出来た居酒屋にも目もくれず帰宅すると同時に聞いてみた。出だしのオケは非常にオーソドックス。なんだ、との思いはピアノパートが始まると何とも表現し難い光悦感に変わった。テンポがおそい。しかし、一つ一つの音が際立っていて、美しい。同じ美しさでも異質。正しい例えかはわからないが、ポリーニがダイヤモンドならフランソワは真珠。
かつて話題になった「のだめ」の中で、ショパンのPコンを異様に遅く演奏する場面があったが、その場面はフランソワの演奏をモデルにしたのではないかとさえ思料される。気づけば一番を聞き終えるまで、何もすることが出来ず、ただただ音に耳を傾けていた。特に三楽章の終末部のbrillante指示があるピアノパート、弦がスタッカートで伴奏をする部分は、こんな解釈があるのかと思わず笑みがこぼれた。クセのある演奏だから合う人、合わない人いると思うが、このCDに出会えたことはこの上ない僥倖であった。第二の宝物になりそうである。
他のメンバーからのコメント
私自身、ショパンはあまり馴染みがなく、曲もあまり詳しくないのですが、ピアコン、気になりました。youtubeで探して聴いてみます♪
私は、次にショパンやるなら、マズルカの38番をやってみたいと思っています!
ショパンのピアコンは協奏曲の中では演奏される機会は少ないようですが,いい曲だと思いますよ。YouTubeにはキーシンの動画がありました。マズルカは名曲の宝庫ですよね。ルービンシュタインとホロビッツの演奏がお気に入りです。弾いたことはないのですが,そのうち・・・38番はショパンらしい旋律で素敵と思います。個人的には20番か23番をやってみたいです(´∀`)
日記を読んで、20代の頃、バレンボイムのコンサートに行った事を思い出しました。何を聴いたかは忘れてしまいましたが、バレンボイムが弾くメンデルスゾーンの無言歌は本当に素晴らしいので是非♪
ここのところラグタイムばかり弾いてましたが、正月休みはChopinとか正統派を真面目に練習しようと思います。
日記を書いたのは・・・
(H.H 20代男、東京都) ピアノは小学校の時3年間。その後一年前から再開。好きな作曲家はバッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーベン、ショパン。最近テニスをはじめました。