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【メンバー日記】さいたま新都心駅 ストリートピアノ&今年の「ストピ活」の総括

12月のある土曜日、夜8時。筆者は新たなストリートピアノを求めて駅のホームに降り立った。ここはJRのさいたま新都心駅。さいたまスーパーアリーナの最寄り駅だ。

改札を出た筆者が目にしたのは、駅の西口、スーパーアリーナの方面からこちらに向かって際限なく人が押し寄せてくる光景であった。広々とした改札前コンコースは、家族連れやカップルで埋め尽くされていた。何かのイベントが終わったところだろうか。

「どこからこんなに人が?」

人流に逆らうように駅の構外へと歩くことにした。暖冬とはいえ、夜になると一気に空気は冷え込む。ビルの谷間を吹き抜ける風がひんやりと感じられた。道の両側に並ぶ木々はオレンジの電飾でライトアップされており、冬の到来を告げているようだった。

駅から歩いて2分ほどのところで人流が途切れた。辿り着いたのは、イルミネーションで彩られた広場だった。辺り一面が青の光に包まれて幻想的な雰囲気を醸し出しており、訪れる者を魅了していた。夜に訪れたのは正解だった。だってイルミネーション、昼見ねぇっしょ

広場ではクリスマスマーケットが開かれており、賑わいを見せていた。左右の屋台から入り混じる匂い。美味しそうな食べ物の数々に目移りしたが、今回は地元ブリュワリーの出店する屋台でチーズのペンネを頂いた。寒さを忘れさせる優しい味わいで、心まで温まった。イルミネーションを眺めながらの食事は格別であった。

食事を終えた筆者はふと思い出した。

「あ、今日はストピを弾きに来たんだった…!」

手元の腕時計は8時42分を指していた。今日のストピの開放は9時までだ。人混みを縫いながら、急いで来た道を引き返した。

筆者が駅の改札前のピアノのもとへ向かうと、ちょうど一人の青年が弾き終えたところだった。彼がピアノの周りを見渡しながら呼びかけていた。

「あと少ししか時間がないので、弾きたい方はいらっしゃいませんか?」

少しだけ弾かせていただくことにした。可愛らしいイラストに気分が上がる。

今回演奏したのは、ベートーヴェンのピアノソナタ30番第1楽章。弾いていて印象に残ったのは、アップライトらしからぬ表現力の高さだ。フォルテは力強く鳴り響き、ピアノはとても優しい音色がした。

イルミネーションからの帰りの人たちだろうか、一人、また一人と足を止めて聴いてくれた。ギャラリーの数は見る見る増えていき、ピアノを取り囲むように30人ほどが集まった。これほど多くの人に囲まれて弾く機会は初めてかもしれない。ますます気分は高まり夢中で演奏した。弾き終えると大きな拍手を頂くことができ、とても嬉しかった。

その後、子どもから大人まで弾きたい人が続々に集まってきた。クラシックからゲーム音楽、ボカロまで、ジャンルこそ様々だったが素敵な演奏の数々に心奪われた。短いながらもとても楽しいひとときを過ごすことができたように思う。

午後9時、今日のストピの開放はこれで終わりだ。先ほどの青年がピアノのカバーを手にしてこう言った。

「今日はピアノを閉める運営スタッフの方はいらっしゃらないようですね。片付けを手伝っていただけますか?」

彼と二人でカバーをかけ、ピアノの前にロープを張る。

「あ、私たち帰り同じ方向ですね!?行きましょうか!」

片付けを終えた筆者は、彼と一緒に帰ることにした。

都内へ向かう電車内で、二人はストピの話で大いに盛り上がった。

「明日は朝一の新幹線でストピ巡りの旅に出るんですよ~楽しみです!」

どうやら彼は全国各地のストピを巡っているそうだ。

「最近行ったここのストピ、すごい弾きやすかったですよ!」

お互いにスマホのカメラロールを見せ合いながら、最近訪れたストピの情報交換をした。日本にはまだ弾いたことのないストピが数多くある、そう思うと興奮が止まらなかった。

「ストピって機種とか環境次第で一台一台全然違う音がするので、面白いですよね!日本全国、常設のストピだけで600台以上あると言われてますからね。いつかは全制覇してみたいですね。」

「行った先々で初めてお会いする方と連弾したりできるのも楽しみなんですよ~音楽を通して仲良くなれるのは最高ですね!」

ストピについて熱く語る彼の表情は、この上なく生き生きとしていた。

楽しい時間も束の間、電車は間もなく荒川を渡り赤羽へ。まだまだ話し足りないのだが、彼とはここでお別れだ。

「それじゃあ、またどこかのストピでお会いしましょう!」

彼とそう言い交わし電車を降りた。またお話しできる日が、今から楽しみでならない。

さて、今年のストピ日記は最後になります。ということで、筆者の今年1年の「ストピ活」を総括したいと思います。

今年は12本のストピ日記を執筆し、計17か所のストピをご紹介しました。昨春から日記で取り上げたストピを地図上でまとめてみました。赤のピンが2022年、青のピンが2023年の記事で取り上げたストピです(日記でまだ書いていないところを含めると、実はこの2~3倍の数があります)。首都圏包囲網が徐々にできつつあり、我ながらよく頑張ったなと思います。これまでにストピのためにかけた交通費を考え出すとゾッとしますが…。

12本の記事を見返しながら振り返ってみました。

(1)「それってお肌の乾燥ですよね」
有楽町、日比谷エリアのストピ3か所を訪問。純白のピアノは見た目にもとても映えていました。都心の人通りの多い箇所に設置されていることもあり、非常に多くの方に演奏を聴いていただけました。

・東京交通会館(常設)
・日比谷ミッドタウン(期間限定)
・日比谷OKUROJI(期間限定)

(2)「流山&柏のストピ巡り」
スターツおおたかの森ではグランド・アップライトの両方が弾けるという贅沢っぷり。スターツおおたかの森、パレット柏とも桜の演出が施されており、春らしさを感じられました。

・スターツおおたかの森(常設)
・パレット柏(不定期開催)

(3)「昭和記念公園 ストリートピアノ」
園内で色とりどりの花を楽しんだ後、ストピも訪問。演奏することで絵を生成できるピアノは、非常に興味深かったです。

・昭和記念公園(期間限定)

(4)「ご報告(1年ぶり2度目)」
日産のコンセプトカー「ROOX SUITE CONCEPT」を見に行きました。「結婚式に乗っていくクルマ」がコンセプトだそうで、トランクには電子ピアノが。斬新な光景にただ驚くばかりでした。

・NISSAN CROSSING(期間限定)

(5)「明月院のアジサイ?」
アジサイが咲き誇る初夏の鎌倉へ。サンリオカフェではキティちゃんのイラストで埋めつくされたピアノを弾くことができました。

・サンリオカフェ鎌倉店(常設)

(6)「やんごとなき用事」
夜の赤羽を散策。美味しいおでんにお酒、ストピでの心暖まる交流のひとときが印象的でした。

・METS赤羽(常設)

(7)「船橋FACE ストリートピアノ」
コロナ禍で3年以上閉鎖していた船橋FACEのストピが遂に復活。老若男女問わず多くの人が集まり、音楽を楽しんでいる様子がとても印象に残っています。

・船橋FACE(常設)

(8)「あの日を奏でるピアノローラちゃん@横浜国立大学」
東日本大震災で津波に呑まれた「ローラちゃん」が奇跡の復活を遂げ、ストピとして開放されるまでの物語。実際に弾いてみると、あの日完全に壊れてしまったことが嘘のように素晴らしいコンディションで、ローラちゃんの生命力のようなものを感じました。

・横浜国立大学常盤台キャンパス(期間限定)

(9)「そうだ 京都、行こう。」
突然思い立って京都駅のストピへ遠征。外国人観光客の方とのベトソナ31番メドレーは、忘れられない思い出になりました。

・京都駅ビル7階広場(常設)
・京都駅西口改札前(常設)

(10)「千葉駅 ストリートピアノ」
11月に設置されたばかりの千葉駅のストピを訪問。ストピとしては珍しい、新品のグランドの響きを楽しみました。

・千葉駅(常設)

(11)「神戸に行こうべ」
神戸のストピ巡り。屋外のスタインウェイのフルコン、サウナの館内のストピと、意外な設置場所に驚かされました。

・三井住友銀行神戸営業部(常設)
・神戸サウナ&スパ(常設)

(12)「さいたま新都心駅 ストリートピアノ」
イルミネーションとクリスマスマーケットを満喫した後、大勢の前でストピを演奏しました。ストピ巡りをする同士との出会いに胸が熱くなりました。

・さいたま新都心駅(常設)

私がなぜここまでストピ巡りに熱を入れるのか、そのモチベーションについて書きたいと思います。

1. ピアノを弾く場所として
自宅にピアノがないため、ここのところはストピに行って弾く時間を確保しています。ただ弾くだけであれば自宅の近所のスタジオでも良いのですが、一台一台の個性を味わいながら演奏できるのもストピならではの魅力かと思います。

2. 普段行かない土地に訪れる口実として
元々街歩きや電車でのお出かけが好きでした。また、ストピを弾きに行った先で美味しいお店を探したり、当会メンバーが教えて下さるサウナを開拓したりすることも大きな楽しみになっています。

3. 人との交流の場として

今年の記事は、特に3番目の「人との交流」の側面に焦点を当てて書いたように思います。偶然その場に集まったもの同士が、お互いに弾き合い、聴き合い、そして語り合うことで仲良くなることができる…。筆者自身、そんなストピの力を感じることができました。

コロナ禍の長いトンネルを抜けた2023年、筆者の日記でもいくつか取り上げましたが、これまで休止していたストピが再開になったり、多くのストピが新たに設置されたりして、ストピ界隈も大いに盛り上がった一年でした。2024年は、さらに音楽による交流を求めて沢山の人がストピに集う年になることと思います。「弾かせていただいている」という意識は常に持ちながらも、来年もストピの現場で多くの人に出会うことができればいいなと思います。


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