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【メンバー日記】演奏会を振り返る/ショパンのマズルカ第13番

 先日の角筈の演奏会、今回もいい演奏盛りだくさんで、とても楽しかったです!出てよかった!
 実行委員のお二方その他運営、スタッフ、演奏者の皆様、大変おつかれさまでした&ありがとうございました!

 今回のコンセプトは、新規と古株の競演ということですが、エントリー時にサークル歴を記入してと言われ、自分が8年目であることに軽く衝撃を受けました。
 最初に1回参加してから1年間幽霊部員だったのですが、思い出したかのように復活して参加した夏合宿が楽しくて、そこで知り合いも増えたので、それ以降定着した感じですね。うん、新規のうちにイベントに参加するって、いいことだ。

 そして、初めてPHの演奏会に参加したのは初参加から1年半以上あとの話。
 現在の僕をよく知る人からは考えられないでしょうが、当時は「人前でピアノを弾く」ということが殆ど無く、舞台で弾くことを死ぬほどためらっていたわけでして(笑)
 しかし、2018年(2017年度)の春の演奏会に初めて参加して、そこで人生初のブラボーを貰ってしまったのに味をしめて、以降コンスタントに参加することになりました。

 ということで、備忘録という意味も兼ねて自分の演奏した曲を振り返ってみました。

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・ショパン 華麗なる大ポロネーズ  2018年春・青葉台フィリア
・リスト  ラ・カンパネラ  2018年秋・武蔵野公会堂
・ショパン 英雄ポロネーズ  2018年秋・四谷
・リスト  コンソレーション第3番 / 超絶技巧練習曲第10番 2019年春・武蔵野
・リスト  スペイン狂詩曲  2020年春・保土ヶ谷
・リスト  ハンガリー狂詩曲(自作カデンツァ付) 2020年秋・三鷹
・リスト  ワレンシュタットの湖で
      ペトラルカのソネット第104番 2021年春・府中
・2台ピアノ ユーモレスク(ジャズver)ハンガリー舞曲第5番(ブラームス) 2021年秋(ジョイコン)・角筈
・バデルト/ジマー パイレーツオブカリビアン・メドレー(自作編曲) 2021年秋・関内
・リスト  ドニゼッティの歌劇「ランメルモールのルチア」の回想/ ラ・カンパネラ  2021年秋・ディアラこうとう
・ショパン エオリアンハープ 2021年秋・武蔵野(飛び入り参加)
・モーツァルト ソナタ第10番ハ長調  2022年新春・奏楽堂
・チャイコフスキー くるみ割り人形より「中国の踊り(作曲者自身によるピアノ版)」/「パ・ド・ドゥのアダージョ(プレトニョフ編)」2022年春・府中
・リスト  超絶技巧練習曲第4番「マゼッパ」 2022年秋・七生
・ショパン ワルツ第7番/英雄ポロネーズ   2022年秋・八王子南大沢
・リスト  波を渡るパオラの聖フランチェスコ 2023年秋・国立
・ショパン マズルカ第13番/ノクターン第20番/プレリュード第24番 2023年秋・角筈

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 こう見ると結構出たな・・という感じがします。リストが8回、ショパンが5回。
 2台ピアノが1回だけで連弾も全然やってないですが、人と合わせるのがイヤなわけではありませんよ!(笑) 譜読みが非常に遅い上に、基本暗譜じゃないと弾けない(鍵盤を見ていないと弾けないので。)のと、本当にやりたい曲じゃないと頭に入ってこないので、おいそれと簡単に「この曲合わせようぜ!」とはなかなかならないのです…^^; 合わせられる人本当に尊敬しますし憧れます。
 今回の角筈のラフマニノフの2台ピアノとかディズニーの連弾も本当に素晴らしかったですね!

 そしてやっぱり自分が出ると思い出に残るというか、出た演奏会がどんなだったか、覚えていますね。あの時は合唱あったなーとか、テレビが入ったなーとか、仮装したなーとか。

 最も思い入れがあるのは、やっぱり自分が実行委員をやった去年の七生かな。
 あと、個人的に、会場もピアノも最も良かったと感じるのは、府中芸術の森ウィーンホールです。またここで弾きたい。みなさんは、どのホールが良かったとかありますでしょうか?

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 さてさて、恒例のごとく角筈の演奏会で弾いた曲について書こうと思います。

 僕が演奏したのは、ショパンのマズルカ第13番、ノクターン第20番、プレリュード第24番の3曲でした。
 この中で、一般的な知名度も低く、曲もやや地味でパッとしないのはマズルカですが、演奏後に「マズルカが特に良かった!」というコメントを何人かから頂けて、やってよかったなぁと思いました。
 このマズルカ第13番、派手さもなくてCDなんかで聴いていると聴き流してしまいそうな曲ですが、僕は傑作だと思っています。
 空虚さ、虚しさに近いような言葉にできないような感情の移ろいを見事に表現していて、じっくり聴くと心に突き刺さるんですよね。うむ、こいつぁオトナの音楽だ。
 そんなショパンの天才っぷりを少し解明しようと思って、自分なりに楽譜をあれこれ考えて分析してみたら、想像以上の天才であった…いや、わかっていたけどマジで凄いなこれは!となったので、誰かに共感してもらいたくて紹介することにしました。

 以下、例によって僕の独断と偏見に基づいて解説をしていきます。
 特にマズルカが大好きな角筈の実行委員長! そしてショパンを愛してやまないそこのアナタ!是非とも、音源を聴いて楽譜を見ながら読んでみてください!

【ショパン作曲 マズルカ第13番 イ短調 作品17-4】

 まずは冒頭の4小節のイントロ。イ短調なのに、「ラ・ファ」の和音が連続して出てくる中に、内声で「シドレ…」と歌い。そして「ラ・ド・ファ」の和音に落ち着きます。
この時点で非常にフワフワした不安定な印象を受けますね。ラドファの和音はメジャーコードであるヘ長調の和音なので、短調の文脈で出されると非常に浮遊感があると思うわけで、この浮遊感こそが空虚さや虚しさを醸し出していると思います。明確に悲しいのではなく、呆然として心ここにあらずといったところでしょうか。あるいは、悲しいのに自分の悲しい気持ちに気付いていないような、そんな感じ。

 続く5小節目からは冒頭の内声で仄めかされたシドレが「シードレー♪」とテーマとなって現れますが、ここでも明確なイ短調の和音がなかなか出てこない。テーマ自体も、もし「シードレー♪」ではなく「ラーシドー♪」と始まるものであったらもっとイ短調っぽくなるのですが、根音から始まらないことによって明確さを消し去り、やはり不安定な印象を与えています。
 しかしながら、完全にバランスを失わないのがショパンの凄いところで、メロディーに現れる6小節目から8小節目まででイ短調の空気を出しています。とはいえ、イ短調っぽくなるやすぐに他の音符に逃げていますね。上手すぎます。
 このように、絶妙なバランス感覚で、あえて明確なイ短調をきわどく避けるようにして距離を保ちながら、天才的な和声の移ろい、そして三連符や付点のリズムや装飾音で、言葉にできないような感情の色彩を描写していきます。
 そして、19小節目に現れる、嘆くような音型(動画だと0:30-, 以下「嘆きの音型」と呼びます。)のあとの20小節目になって、ようやっと明確に「ラ・ド・ミ」のイ短調の和音が出てきます。自分が悲しかったことにやっと気付くわけですね。

 その後は、同じような流れでテーマが再度繰り返されるわけですが(0:34-)、少しずつ装飾が異なって、変化が付いています。この変化の付け具合も絶妙で、ショパンの美的センスあっぱれという感じ。そして19・20小節目と同じような形で35小節目(1:00)に再び嘆きの音型が現れ、36小節目に2回目の明確なイ短調の和音が出てきます。曲が始まって1分経とうというのに、ちゃんとしたイ短調の響きはまだ2回。しかし、登場が少ないからこそ、その効果は劇的です。
 そして、2回目のこの短調の和音で逃れられない悲しみを自覚するや否や、突如興奮し、焦燥感・切迫感に急に襲われます(1:02-)。あるいは苦しみにもがいている感じでしょうか。いかにもマズルカチックなリズムで盛り上がっており、響きには民族色も出ています。このあたりの、心象描写と民族色の融合の素晴らしさも、ショパンのマズルカの真骨頂ですね。
 しかし、すぐにpoco ritenutoで減速して我に返り(1:10)、45小節目のa tempoでテーマに戻ります。このあたりの情緒不安定っぷりがなんともたまりません(笑)

 続く3回目のテーマも1回目、2回目と装飾音が若干異なりますが、重なる部分も多く、ここは演奏で変化を付ける必要があると思います。(僕は所々左ペダルを踏んだり歌い方を変えたり、59小節目の「嘆きの音型」は、前2回と異なり、嘆きを「噛み殺すように」弱音で演奏したりして自分なりに工夫しています。)
 そして3回目のテーマが終わると、ドの♯の音が右手に現れ、これが中間部への呼び水になります。やわらかい光が差し込むようにイ長調の響きになるわけです(1:41)。

 さて、場面が切り替わった中間部。左手の「ラ・ミ」の5度の和音の連続がマズルカの民族的な感じ、イモっぽいというか、いい意味での田舎感を出しています。フォークソングですね。ここでは先ほどの虚しさは皆無で、屈託のない、田園的な響きです。穏やかに晴れて気持ちいい日に、美しい故郷の風景を眺めているような、そんな印象です。
 また、メロディーを大まかに捉えると、前のテーマ部分は「シドレー♪」「シドレミファーソー♪」と上昇する音型から「ファーレー♪」「ミシー♪」と下がる音型になるのに対して、この中間部は「ドシラーファーソファミー♪」と下がる音型から「ミファソーラーシドレーレー♪」と上がる音型に転じており、このような造りも対照的になっている感じがします。ショパンは計算してやっていたのか、それとも直観的に出てきたものなのか…。
 そしてこの中間部は、進むにつれて段々と足取りがはっきりとして、本当に故郷に帰ってきた喜びに溢れるような気分になってきます。

 しかし!! 幸せな気持ちが頂点に達しようというその刹那、この曲で唯一「ff」の出てくる小節の和音、特にその一番上の「ファ」のナチュラルが夢を切り裂き、続く短いユニゾンが一気に現実に引き戻します(2:20-)。

 この部分なんかも、弾いていても本当に心をえぐられる時があります。
 ショパンはポーランドに生まれ育ち、20歳で一人祖国を離れてから一度も帰ることが無かったわけですが、異国の地からも両親や家族がいるかつての故郷の情景を思い浮かべてそれに浸る一方で、しかし、ロシアに対する蜂起なんかもあってポーランドの政治情勢が厳しいことや、そのために自分は容易に帰ることができないということも身に染みて感じており、故郷への思いが強ければ強いほど、空しさと切なさがショパンの心を切り裂いたのでしょう。幸せな白昼夢から現実に引き戻されて「ああ、夢だったのか・・・」と気づく、そんなショパンの心情が痛いほど伝わってきます。

 その後の、4回目のテーマ部分、やはりところどころ装飾的な音が異なっています。嘆きの音型(2:51)にも、高いミの音が加わったことにより、さらに悔しさ、やるせなさといった感情が一層滲みでているような印象を受けます。この嘆きの音型、どの箇所でも音量の指示が全く書いていないのですが、これは演奏者の自由に委ねられているということでしょうか。普通に強めに強調して弾く人や、あるいはホロヴィッツなんかは強烈に音を出していますが、僕は「噛み殺す」ような演奏も好みで、ここもppで弾きました。

 終結部は、諦めを感じさせる雰囲気の半音階的な進行で段々と落ち着いていきます。悩みに苛まれて絶望感が漂っています。そのままイ短調に収束したあと、その響きに続いて冒頭のイントロが再現され、フェルマータの付いた「ラ・ド・ファ」のヘ長調的な和音で、やはり空虚さと浮遊感を出しつつ幕を閉じます。
 最後の部分も、最初と同じ音型と和音にすることにより、思考がループしているような、あるいは悩み苦しんでもがいても、何も変わっていない、何も解決していない、そんな印象を受けます。最後の和音を明確な「ラ・ド・ミ」ではなく「ラ・ド・ファ」で終わらせているのも、解決されていない感じが出ていますね。最初にこの曲を聴いた人は、「え?これで終わり?」ってなりそうです。

 ・・・さて、いかがでしたでしょうか?
 イ短調を避ける和声によって不安定で虚しい雰囲気を作り、それをベースにして、時に苦悩し、時に立ち止まり、嘆き、故郷の夢を見てかりそめの幸福に浸るも、白昼夢から覚めて悲しさは一層深まり、これからも続くような、逃れられない虚しさに包まれる…。
 ああ、なんと切ない! なんと心をえぐるような音楽でしょう!!

 これだけの感情がこの数分間という短い曲に凝縮されていること、そのための様々な工夫や仕掛けがあり、しかもそれが自然である。全体の流れも、ffを出すのはたった1か所だけだったりとメリハリがあって、冗長さや無駄が一切無い。だからショパンの曲は「感情の結晶」だと感じるわけです。

 ここで、リスト様の言葉を引用しましょう。
 『ショパンの作品を紐解いていくと,洗練された美しさや,斬新な表現手法,そして,深い理解に裏打ちされた独創的な和声進行を見ることができる。彼の手にかかると,大胆な表現はいつも少しの違和感もなく絶妙な効果を生み出し,鮮やかな情緒をふんだんに盛り込んでも曲の本質は決して濁されることがない。』
(リスト著「F.Chopin」より。)
 やはりショパンは天才中の天才です。諸君、脱帽したまえ。

 あ、今回自分が弾いたノクターンとプレリュードについても少し書くと、まあ多少ミスはありましたが、いつもの本番よりも大事なところは大きく外さずに弾けた気がします。ノクターンの最後のほうの小さい音符の音階を弱音で弾くのとか、プレリュード最後の打鍵とか、色々研究して練習しました(笑)

 ショパン熱が高くなってきたのでまた他にも弾きたくなってきたぞ。

 ということで、今回は以上です。
 あーあ、また長くて文字ぎっしりの日記になってしまった。

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S.T.
サークル歴:8年目
好きなショパンの曲のジャンル:ポロネーズ
好きなパスタのジャンル:ペスカトーレ
ひとこと:本番の演奏前の心理状態とかけまして、美しい秋の風景ととく。
      
      その心は、

      どちらも「気(木)が高揚(紅葉)する」でしょう。


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